大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

宇都宮地方裁判所 昭和23年(ワ)162号 判決

原告 合資会社内田書店

被告 斉藤太兵衛 外一名

一、主  文

原告は別紙第一及第二目録<省略>記載の土地につき地方長官の建築許可を停止條件とする賃借権を有することを確認する。

原告其の余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告等の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は、被告等は原告に対し別紙第一及第二目録記載の土地につき原告に賃借権の存することを確認する、訴訟費用は被告等の負担とするとの判決を求め、その請求原因として別紙第一及第二目録記載の土地上に建築してあつた瓦葺二階建土藏造店舗一棟(建坪約二十坪二階二十坪)外二棟の建物は、個人経営当時の内田書店が約三十年前からその所有者である被告斉藤太兵衛より賃借していたものを昭和十二年十二月十一日原告会社が改めて賃借の申入をし、それ以來引き続き賃借して書籍雑誌文房具類を販賣して來たものであるが、昭和二十年七月十二日の空襲に依り該建物は総て燒失した。そこで原告は同被告に対し昭和二十一年十月九日附内容証明郵便を以て第一目録記載の土地につき賃借の申出をし、次で昭和二十三年九月十四日附内容証明郵便を以て第二目録記載の土地につき賃借の申出をしたが何れも同被告から拒絶の意思表示がなかつた。仍て原告は罹災都市借地借家臨時処理法第二條の規定に依り右土地の賃借権を取得したのであるが、被告坂本栄次郎は昭和二十三年一月頃右土地を被告斎藤太兵衛より買受けたと称し建物を建てようとして両名共何れも原告の賃借権を爭うので、之が確認を求める爲本訴請求に及んだと陳述し、被告等の主張に対し原告は栃木縣知事に対し本件土地上に建物建築の許可申請をしているが、右は判決をまつて処理するとのことにて留保中である。又原告が清算会社であることは被告等主張のとおりであるが、原告が本件土地に賃借権を有するや否やを確定することは清算事務の一部であると答弁した。<立証省略>

被告両名訴訟代理人は請求棄却の判決を求め、答弁として原被告斉藤太兵衛所有の本件土地上に原告主張のような建物が存在し、昭和二十年七月十二日の空襲に依り燒失したことは認めるが、右建物を原告が賃借していたという事実は否認する。原告がその主張の日に賃借の申出をしたという事実は知らない。本件地上に存在した建物は被告斉藤に於て訴外内田浜吉に賃貸していたが、右建物の燒失後同人若はその相続人より賃借の申出を受けた事実はない。仮りに原告会社に右建物の賃借権があつたとしても原告会社は昭和二十年四月三十日解散して現在清算事務を行つて居るもので、商法第百十六條に依れば原告は清算目的遂行の範囲内に於てのみ法人として存続するものでその以外の行爲能力は之を有しない。解散した会社が清算目的遂行として從來営業を行つて來た店舗が滅失した場合に営業所を新築することは、何等必要がない許りか清算中の原告会社には左様な行爲能力がないものであるから罹災都市借地借家臨時処理法第二條の如き申出を爲す権限がない。又右臨時処理法第二條第一項但書には「又は他の法令によりその土地に建物を築造するについて許可を必要とする場合にはその許可がないときはその申出をすることができない」と規定してあるから、原告会社が同法第二條所定の賃借権を取得するには、市街地建築法に依る建築の許可を得た上で初めて賃借権の申出ができるもので、その許可のない場合には仮令期間内に賃借の申出をしたとするも賃借権を取得することができないと述べた。<立証省略>

三、理  由

別紙第一及第二目録記載の土地及その地上に建てゝあつた瓦葺二階建土藏造店舗一棟(建坪二十坪二階二十坪)外二棟の建物が被告斎藤太兵衛の所有で、同人が右建物を訴外内田浜吉に賃貸していたこと並に右建物全部が昭和二十年七月十二日の空襲に依り燒失したことは本件当事者間に爭のないところであつて、証人倉敷大三郎同大関喜一同内田進並に原告代表者石崎清の各供述を綜合すると、訴外内田清吉は右建物において書籍類の販賣業を経営していたが、昭和十二年十二月十一日合資会社内田書店とその組織を変更し引き続き被告斉藤より右建物を賃借し、爾來その燒失迄同会社名義を以て賃料を支拂つて來たものであることが認められ、右認定に副はない証人斎藤善次郎の供述は当裁判所之を措信しない。而して公証部分の成立に爭がなく原告代表者石崎清の供述に依て其の余の部分も眞正に成立したものと認める甲第一号証同第二号証、証人内田進並に右石崎清の各供述に依ると、原告は被告斎藤に対し昭和二十一年十月九日附の内容証明郵便を以て右第一目録記載の土地につき、又同二十三年九月十四日附内容証明郵便を以て第二目録記載の土地につき建物所有の目的を以て賃借の申出をした事実が認められ、この申出に対し同被告より拒絶の意思表示が爲されていないことは弁論の全趣旨に依つて明かである。

被告等は原告は清算会社であるから新に建物所有の目的を以て賃借の申出を爲すことは清算事務の範囲に属しないと主張し、原告会社が昭和二十年四月三十日解散し清算中のものであることは当事者間に爭がない。しかしその営業所である建物の賃借権の処分は右解散の当時未だ結了しない事務であつて、しかもその清算事務遂行中空襲に依り右建物が燒失し、罹災都市借地借家臨時処理法の規定に從い一定の期間内に之が賃借の申出を爲さねばならない場合であるから、その申出をすることは尚清算会社と雖も之を爲し得るものと解するのが相当である。更に被告等は原告は地方長官に依る建物建築の許可を得て居らないから原告の賃借申出は効力がないと主張するので、此の点について判断するに、宇都宮市が都市計画法第十一條の二の規定に依り都市計画として内閣の許可を受けた土地区画整理の区域内にあることは、昭和二十一年十二月七日内閣告示第二百五十五号に依り明かであるから、昭和二十一年八月十五日勅令第三八九号戰災都市における建築物の制限に関する勅令第三條に依り、地方長官の許可がなければ本件土地に建物の築造ができないものといわねばならない。從つて原告が罹災都市借地借家臨時処理法第二條第一項の規定に基いて賃借の申出をするには、同條項但書に依り地方長官の許可を得るか又は尠くともその許可の申請をした上でその許可のあることを停止條件としなければならないわけである。原告代表者石崎清の供述に依れば原告は本件地上に建物を築造するについて地方長官に許可の申請をして居るが、未だその決定は留保されていることが認められ、他に反対の証拠はない。それならば原告は右申請に依り地方長官の許可を停止條件として被告斉藤に対し賃借申出をしたものと認むべきであるから、右許可を停止條件とする本件土地の賃借権を取得したと謂はねばならない。而して右のような停止條件附権利はその條件の成就前においては一種の期待権に過ぎないけれども、被告等が之を爭うにおいては即時確認の利益を有することは勿論である。

仍て原告の本訴請求中には斯の様な確認を求める趣旨を包含するものと認められるから、右の限度において之を認容することとし、單純な賃借権の確認を求める部分は失当として排斥することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九條を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 杉山孝)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!